
「寄り添う」ことの限界を知った日から
私は約10年間、急性期病院で勤務し、そのうち7年間を消化器外科病棟で過ごしました。一分一秒のミスが命に直結する緊迫した現場。その傍らには、自身の人生や命の終わりに向き合い、声にならない葛藤を抱える終末期の患者さんたちがいました。しかし、急性期の忙しさの中では、その内観的な苦しみに寄り添うことができず、強い無力感を抱えていました。
「一人ひとりにもっと時間を使いたい」。その思いで訪問看護の世界へ飛び込みましたが、時間をかけられるようになっても無力感は消えませんでした。
ある時、ペイシェントハラスメントで事業所を転々とされている方に出会いました。周囲が離れていく中、「私だけは理解しよう」と献身的に関わりましたが、待っていたのは私個人への恫喝とクレームでした。これほど努力しても報われない、自分は看護師に向いていない。そう絶望し、完全にバーンアウトしました。
看護師を辞めるか、自分を変えるか。葛藤の中で心理学を学び、ある事実に気づきました。私自身が「感情労働」をうまく扱えておらず、自分より他者を優先しすぎていたこと。そして、その自己犠牲が、結果的に患者さんの依存を生んでいたということです。
健全な「境界線(バウンダリー)」を引くトレーニングを重ねた結果、仕事の喜びを取り戻せただけでなく、患者さんが依存から抜け出し、回復が早まるのを目の当たりにしました。
個人の努力ではなく、環境を変えるために
この仕組みを500名以上の看護師に伝えてきましたが、新たな壁にぶつかりました。トレーニングで変わったはずの受講生が、職場に戻ると、元の疲弊した状態に引き戻されてしまうのです。
理由は明確でした。個人の力をどれだけ鍛えても、環境(システム)には勝てない。感情労働を個人の根性論にせず、組織で取り組む仕組みにする。その環境変革のために、私は法人化を決意しました。
自己犠牲の上に成り立つケアを終わりにし、感情をチームの力に変える。それが、私たちの目指す未来です。
一般社団法人日本感情労働マネジメント協会
代表理事 赤木 きぬ子
